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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)701号 判決

上告人

梅本龍玄

右訴訟代理人

徳岡一男

徳岡寿夫

被上告人

大雲寺

右代表者

梅本和久

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人徳岡一男、同徳岡寿夫の上告理由第一の一について

宗教法人法二一条二項及び同法一八条二項の規定によれば、責任役員が代表役員を互選する場合において、その責任役員が代表役員の候補者に擬せられているときでも、議決事項につき特別の利害関係を有する場合にはあたらないと解するのが相当であり、同法二一条二項を模した宗教法人大雲寺規則一六条二項及び代表役員の選定につき責任役員の互選による方法をとらず浄土宗の教師のうちから責任役員がこれを選定すべきものと定める同規則八条の解釈としても、責任役員は、誰を代表役員とするかを決議するにつき、自己がその候補者に擬せられているときでも、同規則一六条二項にいう特別の利害関係を有する者として議決権の行使を否定されるものではないと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一の二及び第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤崎萬里 戸田弘)

上告代理人徳岡一男、同徳岡寿夫の上告理由

第一、原判決は判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背がある。即ち第一点は「特別利害関係」に関する法令の解釈適用を誤つたこと、第二点は「公序良俗」に関する法令の解釈適用を誤つたことであり以下論述する。

一、特別利害関係について、

(関係法令)

宗教法人法第一八条第二項、第二一条第二項

(一) 大雲寺規則第八条一項、第一六条第二項

宗教法人法第一八条第二項は宗教法人の代表役員の選定は規則に別段の定めがなければ責任役員の互選によつて定める旨定めているが大雲寺規則は明確に右互選規定を排除し、同規則第八条第一項で「代表役員は浄土宗の教師のうちから、責任役員が選定し、総代の同意を得て浄土宗の代表役員の認証を受ける」旨規定し、且つ代表役員が責任役員を選定することになつているのである。(同規則第八条第二項)

右寺院規則は大多数の宗教法人の規則に採用されているものであり、その趣旨とするところは代表役員の地位の安定並に住職(代表役員)継承権の範囲を限定し寺院の継続性を保持するものである。

(二) ところで会議体において決議する場合「特別利害関係」を有する者が議決権を行使しえないことは当然のことであり、宗教法人法第二一条第二項、及び大雲寺規則第一六条第二項はこれを明定している。

原判決は右両規定を前述したところの規定の差異を洞察することなく全く同一の解釈適用をなした法令の違背があり、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(三) 即ち大雲寺は包括宗教法人としては浄土宗に属するものであるところ、宗教法人法第一八条第五項において包括宗教法人の規程があるときはこれに従わなければならない旨定めている。浄土宗は住職継承について浄土宗宗規第三五号住職・主任規程(乙第一二号証)を定めており、同規程第九条によると住職候補者選定の順位として第一順位として「現住職と師弟関係にある者」と定められており、本件大雲寺における同規程に基づく候補者は梅本竜玄(上告人)と梅本和久(被上告人代表役員)の二人のみに限定されていた。

(四) 右住職・主任規程第九条が強行規定であることは明らかであり、浄土宗宗規第二七号寺族規程(乙第一八号証)第六条に於て「権利を有する」旨規定していることからも明らかである。

即ち、前述のとおり本件住職選挙については明らかに「竜玄又は和久を住職に選任する件」とする責任役員会の議題と同一であり、且つ次に述べる理由から大雲寺規則第一六条第二項と宗教法人法第二一条第二項の「特別利害関係」の内容を同一に解釈適用することは到底不可能である。

(五)(1) 大雲寺規則第九条によると責任役員の任期は三年と定められているが代表役員については一度就任すれば自ら辞任する場合を除いては特段の事情がない限り終身役員であり、責任役員を選定する権限を有し(同規則第八条第二項)、もとより代表役員はその宗教法人を代表し、更に解散の場合は責任役員の三分の二の同意によつて選定された者に残余財産は帰属する(同規則第三七条)のであり、右責任役員の選任権の所在及び代表役員の地位の安定継続性を考慮するとき極めて鮮明に代表役員の選任について責任役員に経済面においても特別利害関係があるといえるのである。

(2) 原判決は代表役員の選定について「総代の同意と浄土宗の認証を受けるべきこと」となつているから云々と述べるが、本件において大雲寺の「総代」は誰であつたのか明確でなく、又大雲寺規則第一七条乃至第二〇条、浄土宗宗規第五号檀信徒規程第六条(乙第一六号証)によるも任期満了後に後任者が就任しない場合職務を遂行すべき規定は意図的にないのであり(法類規程第四条第二項乙第一七号証は定めあり)、本件当時大雲寺には総代は存在しなかつたというべきであり、浄土宗の認証については甲第一一号証において浄土宗宗務庁が自ら述べるとおりいわゆる「認証」であり形式審査であり住職選任の適正担保とならないことは明らかである。

(3) 原判決は「……それが現実には右規定の所期するような実効性を挙げていないからといつて、そのために上記規則一六条二項の特別利害関係の意味につき控訴人(上告人)の主張するような解釈をとらなければならないとする結論は導かれないのである」と述べ前記「総代の同意」及び「浄土宗の認証」が住職選任の適正の担保となつていない事実を認定ながらもあえて「特別利害関係」の内容について宗教法人法と大雲寺規則の規定を同一に解する誤りを犯しているのである。

(4) そもそも「特別利害関係」を有する者が決議に関与した場合その決議は無効であることは前述のとおり、広く承認されているものであるところ、「特別利害関係」の内容は夫々の規定を総合的に評価し更には特別事情として具体的事実関係をも評価の対象として考察し決定すべきものであり、「特別利害関係」なる文言は原判決の判示の如き「画一的評価」になじまないものである。

即ち法或いは規則が「限定的規定」を置けない場面において夫々の事情を踏まえて解決すべきものとした規定というべきものである。

(5) 現在後継住職のない寺院では住職の地位が金銭で売買されることが行われており(梅本竜玄の供述)これはいわゆる「通断」と呼ばれているものであり、住職の地位は経済的利害関係があるものである。

〈以下、省略〉

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